葡萄酒技術研究会 設立趣意書

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葡萄酒技術研究会 設立趣意書

 わが国でブドウの栽培やブドウ酒醸造技術の研究が始められたのは、他の産業と較べても、それ程新しいものではなく、殊に山梨県では、すでに明治初年に青年業者をフランスに留学させています。ただその後世界不況による安い欧米産ブドウ酒の輸入に圧倒される等、色々の理由は挙げられますが、ブドウ酒の醸造技術の改良には殆んど見るべきものがなかったようであります。

しかし、県庁には醸造研究所が設置され、また戦後、山梨大学に全国にも例をみない醗酵研究所が設置されましたのは、この歴史のある甲州でブドウ酒の研究を醸造化学の面から推し進めることが、業界からも強く要望された為であろうと考えます。

ブドウ酒の研究は勿論その原料であるブドウの栽培と切離してできることではありませんから、醸造研究所と醗酵研究所は共に県立農事試験場園芸分場と協力して時々研究会を開くなど、お互いに啓発し合ってできたのでありますが、最近これを一つの会に組織し、民間の熱心な技術者にも参加していただいて、お互いの研究を一層能率的に進めたいという機運が急に盛り上がってきましたので、差し当たって、われわれ山梨県下の有志の者が集まり、設立総会を開き兎角第一歩を踏み出したところであります。ごくささやかな会ではありますが、坂口、山田両先生はじめ諸先生を顧問にお願いできましたことはわれわれの最も心強く思うところであります。

ブドウ酒も最近ようやく一般にその価値が認められるようになり、業界の前途はかなり明るくなったようでありますが、わが国のブドウ酒業界の現状は、まだ経済的の基礎も確立したとは言えず、欧米産の輸入酒に対抗するためにも亦、新しい消費層を獲得して市場を拡げて行くためにも、専門家と実務家とを問わず相互に綿密な提携と連絡とを以てたゆまない努力を続けなければならないと思います。従来とかく研究所の仕事はアカデミックに傾きがちで、業界の要望を直結する研究が少なく業界ではどうしても基礎的研究まで手が届き兼ねるというようなことが遺憾とされていたのでありますが、この会がこういう点の改善にも役立つようであれば、設立の目的は大半が達せられたわけであろうと存じます。

諸賢の力強い御協力を心から期待してやみません。

昭和31年(1956年)7月15日

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